大阪を代表するオールドアメリカンカルチャーを提案する隠れ家ショップ。ファッションルーツはもちろん、バイクやクルマなどの周辺カルチャーへの造詣も深い大久佐さんが、洋服から広がる世界を語る。
ー島根の学校を卒業後、大阪のアパレル業界に就職。これまでの経験から生まれた自分だけのルールや信念があれば教えてください。
18歳で大阪のストリート系のお店に就職してからこれまでアパレル業界一本。今年36歳になりますが、この18年間で変わっていないのは「人を格好良くしたい」という一言に尽きますね。来店していただき、服を買ってもらう。その服を着て街を歩いてもらうのですから、間接的にお客さんの人生を背負っていると思っています。例えばその人が男性で、まぁメンズショップなので男性ばかりなんですけど。その人が「ダサい」「モテない」と言われてしまうと、その1/3は僕のせいだと思うんです。それくらいの気持ちで、お客さんの人生を僕の勝手ですけれども、背負っている。そうした覚悟で続けてきましたね。だからこそ、お客さんに対して怒ったりすることもありますし、「しっかり仕事もしろよー」なんて言葉もかけています。そうしたスタイルをこれまで続けてきましたね。
ーそうした考えが強くなったきっかけや転機はあったのでしょうか?
スタイル自体は変わっていませんが、[AMERICAN WANNABE]の代表になったことと、ここに入社したことは大きな転機になっていますね。就職した店舗では、扱うブランドすべてが好きというわけではなくて、5年勤めた頃に「これは誇れる仕事なのか…?」と疑問を抱いていたんです。そうしたタイミングで声をかけていただき、心底ぜんぶお薦めですといえる服を扱うお店で働くことができました。こうした環境に身を投じることができたのは本当に大きな出来事でしたね。
ーもともとアメリカンカルチャーがお好きだったのでしょうか?
恥ずかしながら、アメリカンカルチャーは[AMERICAN WANNABE]に入社してから学びました。それこそお客さんからも教えてもらいながら、いまも勉強を続けています。いまのストリートにはスケートや音楽カルチャーが根付いてきましたが、アメリカンカルチャーはそのバックボーンが幅広く、そして奥深い。ファッションからモーターカルチャー、音楽やタトゥーまで、周辺のカルチャーと混ざり合いながら形成されてきています。その歴史を紐解いていくことも面白く、そうしたファッションからリンクするカルチャーを面白がることこそ、本質なんじゃないかとも思うんですよね。
ー本質というのは?
カルチャーそれ自体が洋服には付属していると思うんです。その付属するカルチャーが格好良いなと思って自分は洋服を買っていたんです。ただ、いまの若い世代には、その洋服のバックボーン、なぜこうなっているのかという部分への反応が薄いなと感じています。「なんでウチみたいなカルチャーショップで服を買ってくれているんだろう?」と不思議に思ったり、そのまま売って良いのかと思うこともありますが。ただ、そこを伝えていくことも僕の仕事だとは考えていて。その伝え方、方法をもっと模索していかなければと。これは[AMERICAN WANNABE]の代表になってから強く感じることでもありますね。
ーそれがYou TubeやSNSなどへの活動につながっているのですか?
ひとつの方法ではあるかなと思っています。お客さんと一緒にバンドを組むなど、身をもって遊び伝えたりもしていますが、まだまだ方法は模索中。コロナ禍で、そうした伝え方をしっかり考えてきたお店だけがいま残っているとも思っています。洋服の販売方法はもちろんですが、店のありかたや、カルチャーの伝え方を考えていくことも、ますます洋服屋が担う使命なのではないでしょうか。
ーそれは、[AMERICAN WANNABE]の未来を考えて生まれた思いですか?
5年、10年先を見越して考えているわけじゃないんですよ。実はそこまで先を見通すことが僕は苦手で。いまを楽しく生きていくためにはどうすれば良いか? というところがスタートにはなっています。ただ、こうしたカルチャーを教えてくれたかっこいい先輩と若い世代の間にいるのが僕かなと。だったら、若い子を掬い上げて、かっこいい先輩たちの姿を見せてあげたい。そのためにも[AMERICAN WANNABE]がそうしたカルチャーの入り口に、間口を広げるお手伝いができれば…という思いからですね。
ー同じことを続けていくこと自体が困難なことだとも思います。そこになにか秘訣はあるのでしょうか?
それこそ今を楽しむ方法を見つけることですよね。例えばアメカジでも、50’s~60’s、20’s~30’sなど、スタイルはさまざま。特にこのファッションカルチャーは硬く、その硬さ自体も魅力になっています。ただ、それをやり続けていても、ただのコスプレになっちゃうかもという考えが生まれたり。だからこそ崩してみたり、矛盾を楽しんでみたりというファッションスタイルを自分の着こなしとして楽しむようになりました。こうした遊びが、続けるための秘訣なのかなとも思います。そこから車やバイクの世界が広がりましたし、新たな人との出会いもありました。続けることで見えてくる世界、知ることができる世界もある。いろんなカルチャーがありますが、興味を持ったものは少しでも掘り下げてもらえれば。そこで出会う人が、また違う扉を開けてくれるきっかけにもなりますから。